「オリオンはサソリに刺されたから,夏のサソリ座,冬のオリオン座」というように物語は記憶を容易にします.漫画『ヘタリア』『働く細胞』などのように擬人化した世界観は仕組みの理解を促します.神話を語ることで指導者が集団を凝集し,昔話を語り合うことで民衆が親睦を深めたように,ナラティブを欲するのは人類の本能だと考えて良いでしょう.
幼児は現実世界・空想世界を共存させながら自由に行き来することができます.例えば,横断歩道の黒い部分を崖の下であると空想しながら,他人が平然と歩いている現実も認識します.この溶解体験を「受講している自分が存在する現実世界」「説明のために存在が仮定されている,質量・力・重力場・電荷・電場…が見えている物理世界」「物理世界を記述するための数学世界」に作用させる方法を模索します.
「(神話などを)語るための言葉」ミュトス.「論証するための言葉」ロゴス.感情と理性の双方が必要です.
(Keywords: ナラティブ,擬人化,溶解体験,民俗・集団意識,グリム兄弟,クルト・ランケ,マックス・リュティ,柳田國男,関敬吾,小澤俊夫,口承文芸,神話・伝説・昔話,噂話,フェイクニュース)
- 暦の歴史,ロボット制御の話題などを通して,「人類は古代から運動の未来予測をしたかった」という物語を伝え,単なる教科上の知識ではなく人類の一員としてその叡智に触れようとしていることを伝えます.
- 『プリンシピア』『天文対話』『方法序説』などからは引用する場合には,実際の書籍を見せて読み上げます.
- 「とある前提条件が整えば,ある物理量の変化に対して別の物理量が比例的に変化する」という,違う単元でも共通する定型の物語構造がある事を明示します.(デカルト)
- 運動を扱う際,状況の共有としては時間の流れを一時停止した「最初」「途中」「最後」の三コマ漫画を活用します.(昔話では変化の途中は語りません.アウグスティヌスは「いったい時間とは何でしょうか。誰も私に尋ねないとき、私は知っています。尋ねられて説明しようと思うと、知らないのです。」(『告白』第11巻第14章)と述べています)
- 運動を扱う際,納得感を得るためには個々人の心の中に動画を想像してもらいます.「小人になって小球に乗り込んだところを想像して.時刻 $t$ は時計で確認できる.速度 $v$ は景色の流れ,数値としてはスピードメーターで分かる.進んだ距離 $x$ は直感的にはわからない」などと,運動物体そのもの,物語の主役になってもらいます.(マイケル・ポランニー)
- 「ガリレオの慣性運動は円運動」という物語を伝えることで,知識としては当然の様に理解されている「ニュートンの慣性座標は宇宙の果てまで直線」が当時の人々の世界観では画期的であっただろうことを伝えます.
- 円運動を外から観察している人にとっては回転の速さが重要なので,周期 $T$,回転数 $n = \dfrac{1}{\ T\ }$,角速度 $\omega = \dfrac{\ 2\pi \ }{T} = 2\pi n$ に着目する.円運動している質点本人の立場では,速度 $v = r \omega$,(遠心力を決める)加速度 $a = r \omega^2$ が重要.誰の立場で世界を見ているか?誰の立場で世界を観ているかを明確にすることで,物語の主役になってもらいます.
- 授業の流れが明確であれば詳細は未学習の概念でも受講者はあまり気にしません.冪乗 $a^n$ の詳細を数学で学んでいなくても,「$10^n$ で小数点を $n$ 桁左右にずらすのだ」という説明で科学表記を使いこなすことができます.「自由落下・鉛直投げ上げ」「力の分解」について未修得でも,「この場合には加速度は一定なんだよ」程度の説明で「等加速度直線運動」の例として扱うことができます.力学的エネルギー保存則の演習の中で「状況によりチャージされているエネルギー」程度の説明で $U=mgh$ ,$U=\frac{1}{\,2\,}kx^2$ を使用し,その後に「公式導出」「保存力」の説明を行うこともできます.言葉だけのストーリーテリングにおいて,物語の流れがしっかりしていれば瑣末な未知の単語で躓くことは少ないです(『ガラガラドン』における「突き出た鼻は火かき棒のようでした」).日常で見かけない未知のもの(「魔法のランプ」「提灯」「井戸」「囲炉裏」「かまど」)が物語の中心に現れる場合には,絵本・紙芝居などを用いて「こんな感じのもの」程度の具現化で物語の流れに集中することができます.
- 「前提の確認」「求めたい事」を明示的に語ることで,「何故そこに補助線を引くのか?」「何故,その変数変換を行うのか?」など,些細な重要事項・ひらめきとしか思えない定石にストーリーとしての必然性を与えます.
- 予定調和の安心感,想定外の驚き.学習知識の最近接領域を意識します.